ナチュラル社作出ステーションから
第1陣250羽が間もなく到着

アントワープ市郊外に広がるナチュラル社の作出ステーションと博物館
昨年3月11日の東日本大震災から1年が経過した。震災直後には復旧復興支援のために様々な活動や申し出が成されたが、その中にはすぐに実現出来ないものもあった。例えばこのナチュラル社からの500羽の鳩提供の申し出である。
被災者にとってはまず失った家族の慰霊、行方不明者の安否の確認、そして生き残った者の生活の回と復が急務であったのだから、鳩どころではなかったであろう。しかし復興の槌音と共に熱心な鳩飼いの中には飼育再開の熱望も高まってきた。そこでこのナチュラル社の温かい申し出も活きてきたのである。
さてナチュラル社とは何か、そしてその作出ステーションではどのような鳩が飼育されているのであろうか。
ナチュラル社は、レース鳩の飼料メーカーとしては世界最大であろう。(家畜飼料も含めれば、ベルギーでは他に大きなメーカーもある) 日本にもその飼料は輸入されているが、一番の特徴は、その有する作出ステーションであろう。
この作出ステーションは、ベルギー・アントワープ市の郊外セント・アントニウスの広大な敷地にあり、約10,000羽強の種鳩が飼育されている。ハンドラーの数だけでも30人余りだ。 創設は1955年からで現在までの57年間には既に50万羽の鳩が世界中に供給された。2011年実績でも27,392羽の鳩が供給されている。これらの鳩は、数十もの血統から成り、その血統別に各鳩舎に収容されている。一角には性能検定の為と、マネージャー個人の選手鳩鳩舎もある。また建物の一角にはレース鳩、伝書鳩、軍用鳩の博物館も併設されている。
その規模の大きさから最初にここを訪れた人々は、正しく圧倒され、鳩の工場ではないかといった第一印象を受ける。

血統別に分類され飼育されている鳩舎が並ぶ
しかしその飼育内容を細かく観察すると、実に良く管理されているのが分かる。水はランニング・ウォーターで、床は全て金網のスノコである。飼育されている全鳩が丸々の糞をしている。それはそうであろう。
もし1羽でも病気にかかったら、このような閉鎖された鳩舎では、たちまちの内に蔓延してしまう。そしてもしそのような状態になれば、飼料メーカーであり、中国では巨大な鳩医薬品メーカーでもあるナチュラル社の信用は、失墜してしまいます。だから多い時には2万羽近い鳩が、全て健康でなくてはならないのだ。

地中に埋設された水道管からのランニング・ウォーター
この作出ステーションの創設目的は何か。これらの鳩は、一般的には1羽50ユーロ(約5,500円、但し、血統書はなく血統名だけのカードが添付されるのみ)で販売される。またナチュラル社の飼料を定期的に購入している人々は、半額で購入出来る。また血統書つきの鳩も販売されないことはないが、それらの鳩は当然少し高額になる。それは鳩を飼育したくても経済的に余裕のない人々が、手軽に鳩を購入出来るようにするのが目的である。鳩の販売が目的ならもっと高額にするべきであるが、ここの作出ステーションは、あくまでも初心者や裕福でない飼育舎をサポートし、少しでもレース鳩の飼育を普及するためなのである。
2極化された鳩界では高価な鳩が生まれる傾向が生まれているが、一方これから飼い始めようという新人は、高価な鳩には手が出ない。そこでこの作出ステーションの存在意義がある。現在はベルギー国内の鳩界も規模が小さくなってしまったが、それでも毎週日曜日には、ドイツからバスに乗った鳩飼いが数百人単位で訪れる。
ではこの作出ステーションで作出され、外に出た鳩はどんな活躍をしているのだろうか。ここで作出された鳩をじかに飛ばしている人々もいる。
例えば昨年、ベルギーのベールセに住むウィリー・ファンティローは、作出ステーションで作出された若鳩B11-6022464を使翔し、6回のレースに上位入賞させたが、最後のラ・スーテレーヌNレース616Kでは、参加16,665羽中総合21位であった。またテルフューレンに住むルイ・アルブケルケは、2羽の若鳩B11-6000932とB11-6000924をトゥーリー347Kに参加させ7位と9位に入賞している。
オランダのデン・ボッシュに住むゲリー・ファンコイレンは、3×2メートルというミニ鳩舎で、種鳩鳩舎さえないが、昨年ナチュラル社作出ステーションに10羽を注文し、その中にはB11-6008609がいた。この鳩は最初の4レースに入賞した後、最後の8月13日のナントイル338Kのレースで参加6,414羽中総合優勝したのである。
ベルギー・ラウワに住むロベルト・デュハメルは、長年短中距離レースに強かったが、近年長距離レースに挑戦するようになった。そこで2009年8月に3羽の鳩B09-6366375、6366573、6366735を作出ステーションから導入、昨年2才でバルセロナに全3羽を参加させ、クラブ132羽中5、11、13位、プロヴィンシャルでも1,833羽中135、224、235位に入賞した。しかもこの最後の735は、4週間後のペルピニャンNレースにも参加し、N5,591羽中総合559位に入賞したのである。
オランダのフォルストに住むフレンク・ワーゲナールはこう語っている。
「栗のブリクーB11-6007053は、僕を凄く喜ばせてくれました。7月30日の若鳩レースは、まだ(Wシステムに入る前で)巣を持たせて参加しました。最初のフェンローからの100Kレースで、向かい風の厳しいレースでした。(分速968メートル) そこで彼はクラブで優勝し、アッペルドールンの連合会でも3,181羽中優勝しました。ゲルダー・オーヴァーアイセルセ連盟では若鳩と成鳩が一緒でしたがその中でも9,635羽中総合9位に入賞しました。8月20日のレースにはWシステムのやもめ状態でレース参加しました。それでまたやったのです。ポメロイルからのレースで、凄く早いレースとなりました。(分速1467メートル)、クラブで1,989羽中14位、総合では5,430羽中52位でした。夢の始まりです。6羽の栗のブリクーの導入で、最初から成功したんです」
しかし作出ステーションの作出鳩を直接レースに参加させるというのは、一部の人々である。大抵の人は、それを種鳩としてレースしているのである。
その結果、ナショナル・レースや国際レースだけに限っても、以下のような成績が生まれている。
1981 アリカンテ国際1300K1,487羽中総合優勝 オスカー・デロアンヌ(ベ・リブラモン)
1982 マルセイユN700K1,183羽中総合優勝 グスタフ・ダウフィン(ベ・アーロン)
1983 ペルピニャン国際900K3,541羽中総合優勝 ルク・デヘースト(ベ・ニノヴェ)
1984 ブールジュN400K9,975羽中総合優勝 マリオ・ケプスキー(ベ・モンス)
ベルジェラックN北900K12,817羽中総合優勝 ゲールト・ティーメス(オ・ディダム)
ラ・スーテレーヌN500K5,753羽中総合優勝 ピエール・ジェネキン(ベ・バイヨー)
1987 ポー国際900K4,928羽中総合優勝 アントンイェデム(ド・メルツィッヒ)
ブールジュN450K雌の部1,013羽中優勝 W&J.ファゴット(ベ・ネテン)
1988 ラ・スーテレーヌN500K2,550羽中総合優勝 ギー・カペレ(ベ・ディナン)
1989 ペルピニャン国際900K10,892羽中総合優勝 M.ケステラインズ(ベ・ゾテゲム)
1990ダックス国際900K4,730羽中総合優勝 フレデリック・フェルナンド(ベ・ブレーリース)
1992 ペルピニャン国際850K17,331羽中総合優勝 ミッシェル・ペテラック(フ・デュイダン)
ブリーブN680K雌の部1,242羽中優勝 アンリー・ティーンポン(ベ・サンマルテン=ラテム)
1993 ダックス国際1000K9,163羽中総合優勝 ライムンド・ヘルメス(ド・ハム/ジーグ)
1997 ブールジュN450K11,396羽中総合優勝 ガストン・ファンフロイエンホーヴェン(ベ・ボウターゼム)
1998 マルセイユ国際700K19,968羽中総合優勝 アンドレ・グエブ(フ・ロンシャン)
ラ・スーテレーヌN500K7,419羽中総合優勝 アーロー・エンリケ=クンナ(ベ・ワルツィング)
1999 アントワープN1,021K5,420羽中総合優勝 J&J.ズィーゲウルスキー(ポ・ダンスク)
2002 マルセイユN897K5,352羽中総合優勝 ホルスト・ワスムス(ド・ボッテンドルフ)
2005 南ア100万ドルレース・エース鳩第1位 デスカイマーカー兄弟(ベ・アントワープ)
2006 ヨーロッパ・クラシック・エヂンバラ・レース480K1,277羽中優勝 同上
2008 マルセイユ国際レース736K13,954羽中総合優勝 クリスチャン・ベロア(フ・ミジアック)
2009 ガスパ・ヴィラノヴァ・ポルトガル大賞275K898羽中優勝 マーダー(ドイツ)
2010 スストーン国際872K10,195羽中総合優勝 M.ファンデールベーケン(ベ・オーヴァーブーラーレ)
2011 タルベ国際レース730K10,656羽中総合優勝 ミッシェル・マスカール(フ・ブルネル)
KBDB若鳩中距離Nエース鳩第1位 ルディ・ディールス(ベ・ベールセ)
これらの成績は、不完全である。何故ならナチュラル社作出ステーションで作出された鳩の子孫であると、作翔者が知らせてくれないと分からない場合が多いからだ。
これらの中から分かっている昨年の2例だけを紹介しよう。
昨年のタルベ国際レースは、持寄りから放鳩までが1週間かかった。しかも天候が悪く本来の放鳩地タルベより近いアゲン(実距離730K)に戻され、放されたことでも分かろう。
優勝したのは、フランスブルネルに住むミッシェル・マスカールの雄F08-273528であった。09年、10年とレースし、11年にはモンリシャール386K1,555羽中77位、シャトードゥン307K1,370羽中59位、ナントィル156K707羽中優勝の後1月休養の後、タルベ国際で総合優勝を飾ったのである。この鳩の全兄弟F08-273521も素晴らしいレーサーであるが、これら2羽の祖父B03-6001770がナチュラル作出ステーション作のモイレマンと同じく作出ステーション作のファンライン=クルックの雌から作出された鳩であった。
ベルギーのルディ・ディールスは、昨年ベルギーで最も活躍した1人であるが、彼の“ブルー・ゴールド”B11-6023005は、次のような成績を挙げた。
7-09アンジェルヴィル392K2,305羽中3位
7-16 オルレアン433K4,873羽中77位
7-23 アンジェルヴィル2,063羽中優勝
8-27 アンジェルヴィル336羽中優勝
そしてNエース鳩第1位となったのである。この“ブルー・ゴールドの父B07-6007324は、ナチュラル作出ステーションで作出されたが、この鳩はデスカイマーカー系の基礎鳩“69”(ファンダイク・エンゲルス系)の孫である。
ここに少し紹介したが、ナチュラル作出ステーションの鳩は、あちこちで見事に活躍している。これらの子孫が日本の東北の被災地の空で活躍するべく、250羽ずつ2回、500羽贈られてくる。
1日も早い活躍を期待したい。
吉原謙以知