人間は、時としてつらい現実に直面しなくてはなりません。我々が鳩界に身をおく以上、鳩界の持つそういった面も理解しなくてはなりません。それを克服しなくては未来がないからです。 鳩界人にとってつらい現実とは何か。それは鳩界の衰退です。

しかし同時に鳩界の質的変貌も理解しなくてはなりません。一般社会が、変貌しつづけるように、鳩界も変化しています。

このつらい現実と正面から向き合い、鳩界の変化を正面から理解しなくては、未来の鳩界の構築はありえません。

  実際にどのような変化が起こりつつあるのか、紹介してみたいと思います。

                                            吉原謙以知

 ウェブサイト・ピパの行ったオランダ・ペーター・フェーンストラのインターネット競売が、200羽の鳩を190,000ユーロという、すなわち1羽100万円平均という結果に終わり、話題になりました。中でも“ドルチェ・ヴィタ”という雌は、25万400ユーロで、中国の富豪が落札しました。

 その同じピパで、最近ひとつのスキャンダルがありました。それはヨハン・ファンダムの“ロコ”B05-433360 B ♂という鳩です。

 この鳩は、数々の素晴らしい成績により、2009年のKBDB(ベルギー王立鳩協会)主催の長距離Nエース鳩第7位に選出され、更に2010年5月29日のブリーブNレースで総合優勝しました。

血統的にもド・ラウ=サブロン×カレル・フフケンスと理想的です。そこでこの鳩は、ピパの仲介のもと、昨年秋同じく中国人の富豪ウー・シン氏が購入したのです。

 その金額は160,000ユーロ(約1800万円)でしたが、この時購入者のシン氏は、このロコにロコの娘を1羽10,000ユーロで抱き合わせにして購入したのです。

 シン氏は、このロコを勇躍して中国で交配しました。ところが1番仔は無性卵で孵化せず、2番仔も駄目、そして3番仔も駄目でした。鳩の中には、環境が変わるとなかなか仔がとれない鳩もおります。ウー・シン氏は、それでも雌を換え、作出を試みました。しかしやはり結果は同じでした。

 そこへたまたまベルギーBIFSのファンデールザンデン博士が中国を訪れました。ファンデールザンデン博士のBIFSは、レース鳩の人工授精でも有名ですが、同時にDNA鑑定による血縁関係の判定も行います。

 そこでウー・シン氏がファンデールザンデン博士に鑑定を依頼したところ、何とロコの精子には繁殖能力がないことが判明したのです。つまり彼がロコと娘を買ったにもかかわらず、その雌は、ロコの娘でも何でもなかったのです。

ファンデールザンデン博士は、BIFSとしての無精子症の鑑定書を発行しました。幸いなことに、ウー・シン氏の支払った金は、まだヨハン・ファンダムが使用しておらず、返金してもらうことが出来ました。またピパもその仲介手数料他を弁償したのです。そしてピパでは、今後高額の鳩のトレードには、DNA鑑定書を添付すると発表しました。

とどのつまりはヨハン・ファンダムの詐欺ということになったのですが、事件はこれで解決をみたわけではありません。

何故ならロコがトレードされる前に、ヨハン・ファンダムは、ロコの直仔を多数販売していたからです。有名なCC氏は、何と直仔を10羽も購入していました。それも全て偽物になってしまったのです。

この事件は事件として、いずれ解決するでしょう。しかしインターネットの普及が、鳩界にもたらした変化を無視することは出来ません。

 もうひとつの例を紹介しましょう。最近、ベルギーのアンドレ・ロートホーフト氏を訪れたイギリスの愛鳩家が、同氏から1羽のマルセル・アエルブレヒト作の鳩を見せられました。

「この鳩は、私が競売で落とした鳩で、悪い鳩ではないがもう要らない。貴方が欲しいなら、競売で落とした価格250ユーロで譲ってあげる」

 現在、ベルギーをはじめ台湾や中国では、マルセル・アエルブレヒト、ド・ラウ=サブロン、あるいはジョルジュ・ボレ鳩舎の鳩の人気が高まっています。

喜んだ英国人愛鳩家は、その鳩を譲って貰い、帰途につきました。

しかしその帰途、ピパのヘイゼルブレヒト氏に立ち寄り、その鳩を見せる成り行きになりました。するとピパのヘイゼルブレヒト氏は、

「貴方の購入した価格にプレミアをつけるから、この鳩を譲って貰いたい。」

と申し出ました。提示された価格は、1500ユーロ。イギリス人は何もしないで10万円以上儲かるのですから、喜んでその申し出に応じました。

ところがヘイゼルブレヒト氏がこの鳩をピパのネット・オークションにかけると、何と25,000ユーロもの値がついたのです。やはり中国人でした。

鳩界人口が減少する一方で、インターネットの普及で鳩の世界も小さくなり、とてつもない金額の鳩が売買されるようになりました。

 これが鳩界にとって悪い傾向であると指摘するむきも多くなってきました。

第一に、鳩があまり高額になると投機の対象となり、紙に頼って売買する人々が増え、スポーツの精神が失われかねない。つまり鳩の売買をする為には、本来自分の選鳩眼を磨き、価値を判定しなければならないのに、金額の多寡や紙に書かれている内容で何もかも決まってしまう。

 第二に鳩界が育たない、尻つぼみになってしまう、というものです。現在、ベルギー鳩界が衰退している最大の原因は、賭け金レースにあると言われていますが、これと同じ事です。

 つまり鳩レースを純粋に趣味として楽しもうとする人々は、余り鳩にお金をかけません。しかし賭け金レースの結果、勝ちたいという人々はそれだけ鳩に投資をします。

素晴らしい環境の広い土地に、理想的な鳩舎を建て、高価な鳩を集め、優秀なハンドラーを雇います。つまり完全なプロ化です。これでは鳩レースを純粋に楽しもうという人は勿論、新人が参入出来る余地はない、という考え方です。

  KBDB会員数の推移

このようにインターネットの普及で鳩界が変質しつつある中、これらが会員減少の本当の或いは唯一の原因かどうかは、判断の難しいところです。しかしベルギー鳩界の衰退は事実であり、目を覆うばかりです。別表をご覧になれば分かる通り、KBDB(ベルギー王立鳩協会)の発表した会員動向の推移を見ると、会員数の著しい減少が分かります。また僅かですが、それに反比例するように鳩舎の大型化傾向も読み取れます。

第一次世界大戦前には20万人を数えたという鳩王国の会員数は毎年減少の一途を辿り、筆者が鳩の飼育を始めた当時の4分の1となってしまいました。毎年2000人近く減少し、脚環発行数も極端に落ちております。

特に年齢構成を見れば分かる通り、ここ3年連続、会員の中核を成しているのが70〜80才です。そして会員の6割以上が60才以上です。そして20才未満の飼育者数は、いつゼロになってもおかしくありません。2020年前に会員数が2万人を割るのは間違いないでしょう。

またこの表からは分かりませんが、協会予算の減少は運営を大きく圧迫しています。それと現在KBDBは、ここ3年間に顧問の法律事務所に支払う金額が急増し、これも協会を苦しめています。

ベルギーの協会も、会員数の減少にただ手を拱いている訳ではありません。青少年競翔家の育成の為にいろいろ施策はほどこしているのです。

しかし社会の変革、鳩界の変質、そしてそれ以上に予算の減少等の手枷足枷があって、思うに任せないのが現状のようです。

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