2人の偉大な競翔家の死に、謹んで哀悼の意を捧げる

吉原謙以知

 この1月中旬、ドイツ、ドルトムントでの第31回国際オリンピアードを挟んで、2人の偉大な競翔家が亡くなった。ドイツのハインツ・ゼーグミューラー氏とベルギーのトーマス・ペーテルス氏である。  両故人の葬儀に参列することとなり、改めて過ぎ行く時代の流れと感傷に浸ると同時に、故人との思い出や業績を偲んだ次第である。

 去る1月9日、戦後のドイツ鳩界が生んだ最も偉大な競翔家であるドイツのハインツ・ゼーグミューラー氏が亡くなった。 
 ゼーグミューラー氏は、ドイツとフランスとの国境に近いグロース・シュタインハウゼンという村で建築会社を経営していた関係で、レースはベルギーやオランダと同じく南西コースであった。その為、国際レースを主とする長距離レースを目標とする競翔家であった。彼の残したナショナル・チャンピオン5度、Nレース総合優勝9回、国際レース総合優勝6回という記録は、正に不滅の金字塔である。



 彼は1960年代、70年代をドイツ・ケルンの偉大な競翔家故ウィリー・リンツ氏に師事したリンツ一派である。W.リンツ氏の没後、長距離志向であったゼーグミューラー氏は、リンツ氏の2大主流であったシャルル・ファンデールエスプトと、エヴァルト・ハヴェニットのうちハヴェニットを継承して彼の柱とした。同時に彼はベルギーの故モーリス・デルバール、ロジェ・フェレーケ、シルベール・トーヤ、オランダのフォンス・オプハィゼン、W.ヴァイナンツ父子等とも交流を深め、自己の鳩の改良と成績の向上を図った。
 近年は、それだけでは飽き足らずエティエンヌ・デフォスの超銘鳩クライネ・ディディに代表されるようなチャンピオン群の導入にも積極的であった。


 鳩だけでなく、人格的にも多くの尊敬を集めていたゼーグミューラー氏の鳩のファンはそれこそ無数で、当然のことながらドイツ国内外でも大活躍している。

 ここで日本との関係にも少し触れておきたい。私がゼーグミューラー氏を知ったのも、やはり故ウィリー・リンツ氏の引き合わせで、そういった意味では同門である。しかしゼーグミューラー氏が頭角を表すようになったのはその後、1975年のナルボンヌN総合優勝以降である。


彼の鳩が日本に導入されるようになったのは、私が当時の月刊チャンピオンに、ドイツの荒鷲として紹介して以降であるが、日本での一番の成功は、もと鳩協会長の故森田浩光氏が、ゼーグミューラー氏作の輸入鳩同士の交配から中部地区の1000Kレースで総合優勝した例であろう。
親日家であったゼーグミューラー氏は、弊社の創立20周年、25周年、30周年の記念行事だけでなく、何度も来日された。大の鉄板料理好きで、鉄板焼き、ジンギスカンや2度も訪問した広島では、お好み焼きをランチに食べていたのが印象深い。
故並河靖先生は、同氏のポー総合優勝鳩の絶大な信奉者であった。このように偉大な競翔家を失ったということは、世界にとって計り知れない損失であるが、彼の残した業績と影響は、ドイツ国内外を問わず、永く讃えられるであろう。 
改めて謹んで故人のご冥福をお祈り致します。

1月19日には、ベルギー・アスの偉大な競翔家トーマス・ペーテルス氏が亡くなった。享年86才である。故トーマス・ペーテルス氏は、永く飼料メーカーであるヴェルセル・ラガー社のコンサルタントをしていた関係で、ベルギー国内に多くのチャンピオン鳩舎との関係を築いていた。ゴウデン・グライス、コルテベック、モーレナール等の鳩を基礎におき、1973年、75年にはカンピオン・バルセロナという同じ鳩で2度サンバンサンN総合優勝という離れ業を成し遂げ、鳩界を驚かせた。
その後、ハンドラーであったジョス・トネーが積極的に導入したオランダのファンデウェーゲンやカイパー兄弟系の影響から、より長距離の成績にも安定性が生まれてきた。
 そして1988年には、遂にベルギー王立鳩協会のゼネラル・チャンピオンのタイトルも獲得した。
筆者の思い出は、当時の超銘鳩ディエゴ・アルマンド・バルセロナである。この鳩はバルセロナ国際総合9、14位他、全4回上位入賞という成績も申し分ないながら、絵に描いたような血統構成であった。
トレードを申し入れると、何度か家族会議の後やっと受諾はしてくれたものの、私にとっては途方も無い金額で、それでも正に清水の舞台から飛び降りる気持ちで決断して、導入出来た時の喜びは大変であった。それだけにその後僅か半年でこの鳩が盗難に遭った時は、それこそ食事も喉を通らないほどのショックで、それ以降とても高額の鳩を導入する勇気が起きなくなったのは事実である。

 ディデゴ・アルマンド・バルセロナの放出を最後にして、子供達も独立、娘ガビーと結婚したハンドラーであったジョス・トネーも別にレースをするようになり、競翔家としてのトーマス・ペーテルス氏の活躍は次第に影をひそめることになったが、同時に彼は晩年、リンブルグ地方の鳩レースの興隆に尽力した。


故人のご冥福を祈り、合掌。

最後に蛇足となりますが、ここで多少、ヨーロッパの葬儀について紹介してみましょう。
日本とヨーロッパでは、距離も遠く、おいそれと足を運ぶことは出来ませんが、彼らとの40年近い交流から一番学ぶことというのは、やはり友情とかホスピタリティといった点で、ですからよけい義理も欠かしたくないのです。冠婚葬祭は、呼ばれる限り必ず出席するようにしているのですが、今回は、葬儀に絞ってご紹介してみます。

 ゼーグミューラー氏の葬儀は、村の墓地で午後2時から行われました。オランダを早朝に出て、620Kを雪のちらつく中走るのは初めての経験で、しかも葬儀に遅れてはならないと、必死で走ったものでした。
何とか午後1時半には葬儀会場である墓地に着きました。墓地中央の集会所には、遺族を中心に50名ほどが集まりました。礼服で列席したのは私だけでしたが、他の参列者も全て黒やグレーといったダークがかった服装は同じです。
一角には祭壇が設けられています。祭壇は、日本とは形が異なりますが、周りを故人の知人達や企業から贈られた花輪が囲んでいるのは日本と同じです。
葬儀はキリスト教(カソリック)の司祭2名によって行われました。鎮魂ミサの後、賛美歌を挟んで、聖書にもとづいた教えや、司祭と故人との鳩についての会話の想い出が語られます。
最後には、故人の所属クラブの会長が、弔辞を読み上げて締めくくりました。
葬儀が終わると司祭を先頭に全員が、ゼーグミューラー氏の今、正に眠りにつかんとする墓地へ向かいました。ところが、その集会所を出て驚きました。集会所の外には、雪の降りしきる中、中に入れなかった(雪で遅れた)参列者が何百人といたのです。それこそアジア人は私だけでしたが、ドイツをはじめとするヨーロッパ中の有名鳩舎が多数見えています。
こちらは土葬です。お墓の中央には穴が空けられています。それを囲んで司祭が最後の祭儀を行った後、故人と馴染みの深かった人々が順番に最後の別れを告げます。穴にスコップで少し土を入れ、花びらを落とし瞑目するのです。中には泣き崩れる女性も珍しくありません。
私も足の先まで冷えつく寒さの中、やせ我慢しつつ最後のお別れを済ませました。
これで一応葬儀は終わったのですが、それからすぐ近所のスポーツ・ホールへ移り、参列者にはコーヒーとサンドイッチやケーキ、飲みたい人にはビール等がふるまわれました。
仏教とキリスト経、全く異なるかといえば、そうでもありません。参列者の服装、祭壇の花輪、なおらい等々、宗教を越えて似た点はあります。

 故ペーテルス氏の葬儀は、ゼーグミューラー氏のそれと大分異なりました。参列者は全て故人を偲ぶメッセージを添えたカードを用意し、まず最初にペーテルス宅を訪問します。
玄関先には故人の眠る棺がおかれ、その周りを故人の子供たちが棺を守るように半円形で囲んでおります。中央にノルベール、隣にヴィタール、そして娘達。その後方には大きな故人の遺影が飾られています。まず棺の脇に置かれた籠にカードを入れます。私は、謹んで故ペーテルス氏の偉業を偲び、哀悼の意を表します、とか何とか日本語で書いて籠に入れました。そして黙礼すると、それまで泣いていた長女が「こんなに遠いところを、来てくれて有難う」と挨拶してくれたのですが、同時にまたワッと大声で泣き出されたのには正直参りました。

 故人宅を訪れた人々は、その足で向かいにある大きくも近代的な教会に向かいました。かなり広い教会で、参列者の数はゼーグミューラー氏の場合同様数百人は詰め掛けました。ただ残念なことに、鳩界関係の人々は、僅かのベルギー人だけでした。それは故人が晩年、余りレースをしていなかったから仕方ありませんが、ゼーグミューラー氏のそれと比べて、かなり寂しい思いがしました。

 祭壇の上にはコーラス隊が着座しており、司祭が入場すると、すぐさま葬儀社の人々が棺を支えて入場して来ました。後には子供達家族が、それぞれ夫婦2名ずつの列で付き従っての入場です。棺が中央に安置されると、こちらのやはりカソリックの司祭による葬儀の開始です。葬儀は、全てフレミッシュでもなまりの強いリンブルグ州の言葉で行われる為、半分も意味が分かりません。しかし式次第は、ドイツでのそれと殆ど同じで、ただ娘や孫の弔辞が複数入った為、約倍の時間がかかりました。

 もうひとつドイツのそれと異なるのは、葬儀の最中に、葬儀社の人が各席を廻って、金を集めることです。大体の人が1ユーロ前後入れますが、これが教会の維持費なのです。ドイツではどのように費用を出すのか分かりませんが、参列者は金を払いません。もしかしたら日本の香典という制度は、世界でも稀な参列者高額負担習慣かも知れません。

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