ベルギー短信⑥(6月20〜30日)

  私がいるベルギーのド・ダィフ新聞社は、恐らく世界最古の鳩の新聞社です。1888年創刊で、もうすぐ130年になろうという新聞社で、しかも昔の新聞がかなり揃っているのが凄いと同時に、非常に面白いです。
 近々、ナチュラル社のヨセフ・デスカイマーカー氏も彼の父親であるノエルとローベルトの1930年〜1933年当時のレース成績を調べに来るので、会う予定ですが、当時の新聞を見てみると非常に面白い記事も出てきます。
 たとえば当時なんとベルギーには、北アフリカのアルジェリアからのレースの記事も載っています。この記事では、このレースには5,000羽以上が参加したけれど、約1週間経過してまだ5,000羽が未帰還であるというようなことしか書かれていませんから、何羽帰還したのかは分かりません。アルジェリアは、アフリカ大陸の国ですから距離は近くても1800K、しかも直線で飛べば地中海の上を最低でも600K飛ばなくてはなりません。一番楽なのは、200Kほど海上を飛んでスペインに渡り、そこからほぼバルセロナと同じコースを辿ることですが、そうすると2000K以上の飛翔距離になります。
 しかも持ち寄りから放鳩までの日数や輸送方法は、どうだったでしょうか。戦前ですから飛行機輸送は考えられません。鉄道と船を使っていれば、少なくとも1週間、或いは、そして恐らく10日間は要したでしょう。

 戦後の日本鳩界では、如何に遠くから如何に多くの鳩を帰し、記録を更新するか、多くの競翔家が夢を持ってレースしていました。広島鳩界も盛んでした。
 恐らく1930年当時のヨーロッパ鳩界もそうだったのでしょう。ローマからのレース、アルジェリアからの殆ど不可能なレース、これらのレースに挑戦することで、人々は夢を追いかけたのです。そこには挑戦者のロマンや夢を感じます。
 それが今では完全に不可能になりました。ヨーロッパでは、少しでも帰還率の悪いレースになると、動物愛護団体が黙っていないのです。
 確かに生き物の生命は大切です。しかし彼らの生命を大切にすることで、逆に人間は何か大切なものを失ってはいないでしょうか。
 
 最近、ド・ダィフ社に、よくリックの子供達が1人でやってきます。息子のフェン君と娘のキンバリーちゃんですが、彼らはここに勉強にやってくるのです。恐らく自宅と違って、静かな環境で勉強が捗るのでしょう。先週には、夜中に物音がするので行ってみると、娘のキンバリーちゃんが、資料を作る為のコピー取りで、深夜に作業していました。
 彼らリックの子供たちが、よく勉強し、成績も良く、親のリックやヤンが非常に満足しているのはよく分かりますが、それ以上にいつも思うのは、彼ら親子の中の良さです。
 実によくコミュニケーションがとれているのです。
 リックが結婚して家を出てからも、彼は毎日何十回もヤンに電話してきては、鳩や仕事の相談をしています。
 昨日、彼ら一家とレストランで食事をした際も、実に会話が弾み、日本で見られるような親子の断絶などというものは、全くありません。
 日本では、よくスマホに夢中になる子供たちが、夢中になるあまり、親の話を聞かない、というようなことが聞かれますが、彼らの場合、それはありません。ないというのは、彼ら子供たちがスマホに夢中にならないのではなく、そのレストランでの食事の後も、彼らが撮った写真を家族に見せようとするし、スマホ自体が断絶の原因にはなっていないのです。
 いつかその原因というか、日本との違いについて、はっきり理解出来ればと思います。

 そういった意味で、人間関係とは異なりますが、最近、ベルギーの食材によく馴染むようになってきました。
 僕は、日本は先進国で、何でも日本の方が優秀みたいに思っていましたが、最近は、特にこと食材に関しては、全く違う意見を持つようになりました。
 例えばイチゴ、日本のアマオウのような甘いイチゴは、こちらにはありません。ただ驚いたのは、こちらのイチゴは、購入して10日でも2週間でも腐らないのです。こちらは1週間に1度、車でスーパーに1週間分の食材を買い出しに行くのが普通ですから、やはり最低1週間は日持ちするのが、条件なのでしょう。これは果物だけでなく、野菜も全く同じです。特に様々な野菜を刻んでパックした状態で売っている物は、日本では数日しか持ちませんが、こちらでは余りに量が多いので、少しずつ野菜炒めにしても、2週間なんともありませんでした。
 これは当然、果物や野菜に限らず、すべての食品に共通しているのでしょうが、その食材作りのコンセプトが、日本とは異なるのだろうと思います。
 ただ文化の交流から、食べ物も日本の影響が徐々に感じられるのは嬉しいことです。スシ・バーの普及はその一端ですが、先日はステーキハウスで、(ベルギーでは当然ですが)100パーセントビーフのハンバーグ・ステーキを、ワサビ醤油で食べさせて貰いました。
 だから段々食事の不自由は感じなくなりつつあります。

6月22日水曜日 今日は珍しく天気が良いので、或いはと思ったことがあります。それはベルジアン・マスターの参加鳩の訓練です。ベルジアン・マスターの最初の公式訓練予定は6月16日でした。それが遅れ、遅れてまだ一度も訓練は行われておりません。
 今年のベルジアン・マスターは、8月15日放鳩予定ですから、残り54日間です。ところがヨーロッパの最近の異常降雨の為に、まだ最初の訓練が出来ないのです。
 ベルジアン・マスターの訓練は6回、その後エース鳩を選ぶ為の予備レースが4回、そして最終レースと、合わせて11回の放鳩が予定されているのです。
 仮に今日放鳩出来ていたとしても、5日間おきに行わなくてはなりません。ところが珍しく暑く晴れた今日を除くと、明日からまた嵐の日々が続く天気予報なのです。しかし結局今日も最初の近場の訓練さえ見送られました。今のままでは最終的に訓練は4日おきくらいに行われなければなりません。さてどうなりますことやら。

 ベルジアン・マスターの鳩舎の前に、今年から世界選手権鳩舎が建ち、委託鳩が収容されています。この委託レースは、個人別、国別対抗の他、エース鳩も3位まで選ばれて、来年のブリュッセル・オリンピアードで表彰式が行われるFCI主催の公式世界選手権レースです。
 放鳩は、ベルジアン・マスターと同日に行われますが、ツールより短い400Kで行われます。
 残念ながら、日本からは参加がなかったようですが、こちらも未だ訓練が出来ていないようです。

6月27日月曜日 このところ忙しい日々が続いて書く暇がありませんでした。

 昨日の日曜日は、今度共同鳩舎を組むことになったヨハン・ブランスと一緒にバルセロナの持ち寄りに行きました。ヨハンは、ヤン・ヘルマンスの鳩舎でハンドラーを務める1人ヤン・ブランスの息子です。

 
 持ち寄りは、アイントホーフェン南のファルケンスヴァールトの一角にあるクラブ・ハウスで行われました。ここは前にも何度か来たことがあり、その度に羨ましさを感じたものです。ホールもさることながら、100人以上が車を駐車出来るスペースがあるのさえ立派です。
 持ち寄りは、2時半頃から人々がやってきます。入口を入って廊下の左にある棚に鳩の自分の籠を載せ、廊下の右側にある持ち寄り室で、受け付けを行います。受け付けというのは、賭け金を記入した持ち寄り用紙、プールブリーフの提出だけです。
 来た順番で持ち寄りが行われるのですが、今回面白いと思ったのは、籠がオス、メスで分かれている他に、チップリング鳩用と、ゴム輪記録鳩用にも分かれていることでした。
 ヤンに聞いてみると、オランダの協会はゴム輪=記録時計を禁止したい意向らしいのですが、ベルギーは、未だに電子入舎システムを買えない貧しい鳩舎を保護するべきとの政策で、しかも国際レースは、全て主催団体がベルギーである為に、いまだにこの二刀流が現状なのだそうです。
 受け付けを済ませると、つまりそれは用紙の提出だけなのですが、今度は廊下の突き当りのホールに行きます。
 ホールは、机とテーブルが並んでいて着席で50人以上、立つ人も含めると150人は、入れます。入口を入って左手の壁のところにはステージがあります。また右手にはバーがあります。
 そこのバーを手伝うのは、クレッセンス=ドレツパー鳩舎の奥さんのリアともう1人中年の女性です。飲み物は、ビール、ジュース、コーラ、コーヒー、紅茶や水、それにアイスクリームや僅かのつまみもありますが、全て1ユーロです。日本流に言うと100円均一です。
 ですからそこに鳩仲間が集まって、20人におごっても20ユーロ、極めて良心的ですが、こういう利益を出さないやり方がオランダ流とも言えるでしょう。
 ここで、皆が飲みながら談笑していると、館内放送で、「誰それ、持ち寄りの順番だよ」と呼ばれて持ち寄り室に行きます。
 ただこの場合の持ち寄りは、鳩番号を確認してゴムを挿入し、鳩を籠詰めするだけです。全ての参加者に義務付けられている記録時計の規正は木曜日で、全員また集まらなくてはなりません。
 すなわち持ち寄りが2回あるのです。
 鳩を籠詰めすると、またホールに戻って飲みながらの談笑が始まります。
 このクラブ・ハウスは、持ち寄り、表彰式、鳩のオークション、品評会、会議なんでも行えます。
 こういった設備の充実は、全て協会役員の指導力、会員の努力によるものですが、日本では考えられない素晴らしい施設です。
 また1時間ほど経つと再度名前を呼ばれ、ステージ横のコンピューター室に隣接した小ホールに行き、そこで会計を済ませます。
 この日、我々は2羽の参加でしたが、賭け金等で300ユーロほどを支払いました。ヤンは3羽で1000ユーロほどを支払いました。さて結果はどうなりますことやら。
 
 持ち寄りが終わると私とヨハンは、この日のアジャン国際レースの参加鳩の帰りを待つために鳩舎に戻りましたが、夜10時頃まで待っても帰還はありませんでした。
 丁度夏至に近かったので、夜11時過ぎまで飛べる状況でしたし、夜は雨も上がったのですが、筆者は、他のレースの記事を書かねばならず、帰宅せざるを得なかったのです。
 翌日ヨハンからメールが来て、結局当日は帰還がなく、3羽が翌日の朝3分間の間に全て帰ったとの報告で、一安心しました。
 彼の現在の選手鳩は、全てシュロウルス=ハウベンの作った鳩ですが、今、ヤン・ヘルマンスもせっせと選手鳩を作ってくれますし、間もなくコール・デハイデの作出鳩数羽を種鳩として迎える予定です。少しでも芽が出るのは3,4年後でしょうか。

6月29日水曜日 今日は、急遽、友人のヤン・ヘルマンスとロプ・フクストラの3人で、今年のポー国際レース総合優勝鳩舎キース・ドローホ鳩舎を訪問しました。
 急遽、と書いたのは、実は前日までは獣医のロプ・フクストラは、「行かない」と言っていたからです。彼は今年、ポーの第1マーク鳩に加え、ポーの第一帰還鳩を相次いで、猛禽類に殺され、もう鳩の飼育を止める、と言っていたのです。
「今年だけでもう50羽やられたよ。しかも最高の選手鳩ばかり」
 彼の気持ちは分かります。オランダでも「緑の党」が強く、例え猛禽類が増えすぎても、どうすることも出来ないのです。
 
 まあそれでも行ってきました。片道丁度200K、2時間のドライブです。我々が出発したのはオランダ南部ですから、鳩もそれだけ余計に飛んでの国際総合優勝は立派です。
 11時に出発し、ドローホ鳩舎についたのは約束の1時過ぎでした。キッチンで、コーヒーにケーキを振る舞われながら話していると、そこにケース・ファンデルラーンもやってきました。彼もそう遠くないところに住んでいます。またドローホ氏の息子のケースも話に加わりました。
 丁度、バルセロナの持ち寄りが終わったところでしたが、ドローホ鳩舎は15羽、ファンデルラーンは25羽参加したとのことです。果たしてこのメンバーの中から上位入賞鳩舎は出るのでしょうか。

 さて鳩を見せて貰う段階になりましたが、残念ながら、昨年のバルセロナN1300K総合優勝鳩は、見られませんでした。というのもバーテンブルグ=ファンデメルヴェと共同作出に貸し出しているようなのです。
 ともあれ昨年のバルセロナN総合優勝鳩は、そう若くありませんし、血統的にも今年の総合優勝鳩の方が魅力的です。
 で鳩を見ての印象ですが、最初に掴んだヤンが、「こりゃ、驚いたな」と言ったきり、言葉を発しません。素晴らしい鳩というのは、自分が掴まなくて、他人が掴んでいるのを見てもある程度分かるものですが、私も感覚的に、「これは?」と思いました。ヤンの次に掴ませて貰いました。
 

クィーン・オブ・ザ・ナイト。凄い名前の鳩には違いありませんが、決して名前負けしていません。批評しろと言われれば、中型〜中型の小、バランスがよく、筋肉も素晴らしく、目も最高、となるのでしょうが、この雌に関しては、そのような評価は陳腐でしかありません。
雌だから貫禄という言葉は当てはまらないかもしれませんが、正に凄い鳩です。私も過去数十年にありとあらゆる超銘鳩や総合優勝鳩を掴みました。ファンデウェーゲンのオード・ドーファーチェやド・バルセロナの印象は、今でも忘れられません。マライン・ファンヘールのドルにしてもそうでした。しかし雌鳩で印象に残る鳩というのは、少ないものです。
過去10年程度を思い出しても、コール・デハイデのフーデン・ブラウくらいしか思い出せません。さらに遡っても弊舎が種鳩として導入したヤン・テーレンのド・10くらいのものです。(ド・10はその後静岡の横地氏にトレード)
中距離の鳩で言えば、フィーネケやリック・ヘルマンスのフレンドシップも「凄い」鳩でした。
誰だって確かなことは言えません。でもこの筋は、日本であろうが、オランダであろうが「飛ぶな」というのが印象です。久々に目の保養をさせて貰いました。

6月30日木曜日 今日は、バルセロナの時計規正日です。国際レースの場合、自動入舎システムだけでは、記録が認められません。全員が時計を使用します。但し、自動入舎システムのある人は、分速計算だけは、自動入舎システムで計算されます。

 前回の鳩の持ち寄りと同じクラブ・ハウスです。このクラブ・ハウスについては、前回紹介しました。この我々のクラブ・ハウスで鳩を持ち寄る会員の中には、我々やヤン・ヘルマンスだけでなく、ヴィム・バクス(ヤン・テーレンがバルセロナ国際レースに総合優勝したリッキーの作出者)や、80年代最強のバルセロナ・レーサーであったペーター・ファンデンアインデンも来ます。ペーター・ファンデンアインデンは、昔通り元気そのもので、機関銃のようにまくし立てていますが、鳩レースの方は、最近さっぱり音沙汰がありません。非常に残念です。

 時計の規正は20時丁度に行われました。日本と同じですが、原子時計の時報に合わせているだけです。ベルギーのように1台、1台の時計を、順番に規正していくやり方ではなく、日本と同じように参加者が一斉に規正を行うのは親近感があります。
 今日はバルセロナの規正でしたが、30台ほどの時計が2度規正を行いました。
 いよいよという感じです。
 しかし時計の規正が終わってホールに戻った時、パートナーであるヨハン・ブランスが私にポツリと言いました。
「どうも今の自分の選手鳩には、満足出来ていないんだ」
 その気持ちはよく分かります。あるベルギーの有名な長距離鳩舎が作出した28羽でスタートしたのですが、彼には不満なのです。いずれ鳩を少しずつ入れ替えなければならないでしょう。
 ヨハン・ブランスは、年中ヤン・ヘルマンスの鳩舎に出入りし、かなりの鳩を熟知していますから、自然と目が肥えてきます。
 やはり長距離で、最終目標をバルセロナにおくならば、今選手鳩ではダメです。しかし着々と準備は整っています。コール・デハイデ、ヤン・ヘルマンス、イェレマの鳩を主体に、種鳩が揃いつつあります。

開花は5年後でしょうか、10年後でしょうか。でも必ずやり遂げます。

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